不動産仲介の「エージェント制」を議論したい!
まずは、不動産を売る場面をイメージしてみてください。売主さまが売却を依頼した会社に、買主さまから価格交渉が入ったとします。
買主さま
「もう少し安くなりませんか? 売主さんと交渉してほしいです」
売主さま
「買いたいと言ってもらえたのはうれしいですが、できれば値下げせずに売りたいです」
両方を担当する不動産会社
「売主さまも買主さまも、大切なお客さまです。双方が納得できる条件を探していきましょう」
高く売るために頼んだ会社が、安く買いたい相手の担当でもある。自分の希望と買主さまの希望がぶつかったとき、この会社は、どちらの立場で交渉するのでしょうか?
両手仲介では、同じ会社が売主さまと買主さまの双方を担当するため、一方だけの味方にはなれません。これに対して、売主さま側と買主さま側の担当会社を分けるのが、ここでいう「エージェント制」です。売主さまは、自分の側に立って交渉する担当会社を持てます。
ゆめ部長は、この立場を明確にする価値を認めています。それでも、エージェント制の義務化には反対です。ただし、エージェント制を「選べる」市場になるのは大歓迎。両手仲介にも実務で感じてきた売主さま側のメリットがあり、違いを理解して選べる余地を残したいからです。
- エージェント制=売主側と買主側で担当会社を分ける仕組み
- 担当会社を分ける価値はあるが、会社の成約優先まではなくせない
- エージェント制の義務化には、報酬ルールの検討も必要
- 両手仲介には売主さま側の4つの実務メリットもある
- エージェント制の義務化には反対、知って選べる市場は歓迎
不動産仲介20年超の宅建マイスター、ゆめ部長が解説します。ゆめ部長は財閥系大手仲介会社から中小の不動産会社まで複数の会社で経験を積み、現在は売却専門の「真っ直ぐ不動産」を運営しています。大手・中小の両方を知るからこそ語れる「エージェント制への本音」をお伝えします。
※本記事は2026年9月の最新情報に対応しています。
エージェント制とは?日本の仲介との違い
エージェント制とは、売主さまと買主さまに、それぞれ「自分の側に立つ担当者」がつく仕組みです。このコラムでは、売主さま側と買主さま側で担当会社を分け、それぞれが自分の依頼者の利益のために動く仲介の形を、エージェント制と呼びます。
売主さま側の担当が、セラーズエージェントです。売主さまのために売却活動を進め、価格や条件を交渉します。真っ直ぐ不動産のオープン売却プランが、このセラーズエージェントにあたります。
▶︎「囲い込みしません」を信じられますか?|囲い込みできないオープン売却プラン
買主さま側の担当が、バイヤーズエージェントです。買主さまの側に立って、購入する物件や条件を考え、交渉を進めます。
買主さまだけの味方になろうとする担当者が、日本の現場でどのような難しさにぶつかるのか。購入仲介の現場については、次の記事も読んでみてください。
▶︎バイヤーズエージェントの理想と現実|買主さまの味方を貫く難しさ
アメリカの不動産取引が代表例としてよく挙げられますが、ここでは海外制度の細部には踏み込まず、先ほどの定義で話を進めます。
取引の形を並べると、違いがはっきりします。
- エージェント制:「売主さま+売主側の会社」VS「買主さま+買主側の会社」のチーム戦
- 日本の両手仲介:売主さまと買主さまの間に、1つの不動産会社だけが立つ
エージェント制では、売主側の会社は1円でも高く売るために、買主側の会社は1円でも安く買うために動きます。価格や条件の交渉は、会社同士が正面からぶつかり合う。売主さまから見れば「うちの担当は、うちの味方」。立場が最初から明確で、1つの会社が「高く売りたい売主さま」と「安く買いたい買主さま」を同時に抱えることは、構造上ありません。
一方、日本では1つの不動産会社が売主さまと買主さまの両方を担当できます。これが「両手仲介」です。売主さまか買主さまのどちらか一方を担当する「片手仲介」と混在しているのが日本の現状で、両手仲介の仕組みはこちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎両手仲介とは?会社の利益が約2.5〜3.5倍に膨らむ仕組み|片手仲介との違い
ここで区別したいのは、「エージェント制を選べること」と「エージェント制の義務化」です。前者は、売主さま・買主さまの選択肢を増やすこと。後者は、売主さま側と買主さま側の会社を必ず分けるため、両手仲介の禁止とセットになります。ゆめ部長が反対しているのは、後者です。
なぜ今、エージェント制が議論されるのか
背景にあるのは、囲い込み問題です。売却を任された会社が他社からの問い合わせを断り、自社だけで買主さまを見つけようとする行為。両手仲介の報酬を狙うことが動機になっています。
2026年8月時点のX(SNS)では、仲介のあり方をめぐって大きく2つの流れがあります。
1つ目は、「仲介手数料の上限を撤廃し、あわせて両手仲介を禁止する」という流れ。1社が担当するのは売主さまか買主さまのどちらか一方だけ。まさにエージェント制の方向です。
2つ目は、「両手仲介は容認し、囲い込みを禁止する」という流れ。悪いのは両手仲介そのものではなく囲い込みだ、という整理です。
エージェント制に期待されているのは、こういうことでしょう。「担当する会社を分ければ、利益相反がなくなる。囲い込みも消える」。担当会社を分けることで変わる点はあります。ただ、何が変わり、何が残るのか。そして、その価値がエージェント制の義務化まで正当化するのか。この順に整理していきます。
また、両手仲介と片手仲介が混在する今の日本の現場と、市場全体で会社を分けるエージェント制の義務化は、分けて考えます。今の現場で買主さま側の交渉が難しいことだけで、担当会社を分ける仕組みの価値までは否定できないからです。
エージェント制で解消できる利益相反と、残る利益相反
最初に、エージェント制の価値を確認しましょう。担当会社を分ければ、売主さまは「買主さまも自社のお客さま」という立場に縛られない担当会社を持てます。また、両手仲介を禁止すれば、両手の報酬を狙った囲い込みの動機は、確かに小さくなります。ここはエージェント制のメリットです。
ただし、不動産仲介の利益相反には、実は2種類あります。この2つを分けると、エージェント制で解消できる問題と、解消できない問題が見えてきます。
利益相反①は、「売主さまVS買主さま」。高く売りたい売主さまと、安く買いたい買主さま。この両方を、1つの会社が同時に担当することで生じる問題です。
冒頭の会話を思い出してみてください。売主さまから見た問題は、仲介会社が板挟みで大変なことではありません。「自分のために交渉してほしいのに、この会社は交渉相手の利益も考える立場にある」ことです。担当者が誠実であっても、この立場の問題は残ります。
エージェント制では、売主さま側の担当会社を、買主さま側から独立させられます。売主さまと買主さまの利害対立そのものが消えるわけではありません。解消できるのは、その両者を1つの会社が同時に担当する構造です。
利益相反②は、「売主さまVS不動産会社」。高く売りたい売主さまと、早く決めたい不動産会社。仲介手数料は成功報酬なので、不動産会社には「価格を少し下げてでも、今月中に契約したい」という動機が働きます。
「売主さまが損をしようと、買主さまが損をしようと、成約になればいい」。会社がこの発想に傾くと、譲歩させやすい側を説得して、契約をまとめようとします。売主さまの敵になったように見えても、買主さまの利益を第一に考えているわけではない。優先しているのは、自社の都合です。
この②は、会社を分けても消えません。売主側のエージェントも、成功報酬で動く不動産会社だからです。「早く決めたい」という会社側の事情は、片手仲介でも両手仲介でも、同じように働きます。会社を分けても、「売主さまの利益を100%守る仕組み」にはならないのです。
この二重構造は、実際の取引例と海外の実証研究をもとに、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎不動産仲介の利益相反とは?会社を分けても消えない二重構造|業界20年のプロが解説
②が残ることは、①の構造を解消する価値を否定する理由にはなりません。エージェント制を選ぶ価値と、エージェント制だけでは解決しない問題の両方がある。ここを、エージェント制の義務化への賛否とは分けて考える必要があります。
エージェント制の義務化で、困る売主さまが出てくる
ここからは、もっと現実的な話です。現行の報酬ルールのままエージェント制の義務化を進め、両手仲介を禁止すると、不動産会社は片手分の仲介手数料しか受け取れなくなります。
価格の高い物件なら、それでも成り立つでしょう。問題は、価格の低い物件です。たとえば800万円以下の物件は、特例を使っても片手の仲介手数料は税込33万円が上限。ここから広告費・人件費・調査の実費を引くと、ほとんど利益が残りません。
現在は、価格の低い物件でも、両手仲介になれば売主さま・買主さまの両方から手数料を受け取れる可能性があるため、仲介として引き受ける余地があります。両手を禁止して一律に片手へ固定すると、会社が見込める収入そのものが下がるのです。
すると何が起きるか。「仲介では引き受けられません。買い取りますよ」という提案が増えます。仲介より買取のほうが、会社の利益が大きいからです。売主さまは、相場より安く手放すことになりかねません。両手仲介の禁止は、こうして価格の低い物件の売主さまに、実害となって跳ね返ります。
ただし、これも正直に書きます。この弊害は、仲介手数料の上限を見直せば小さくできます。先ほど紹介した1つ目の流れも、両手仲介の禁止を上限の撤廃とセットで主張していました。セットで実現するなら、価格の低い物件の問題は、かなり軽減されるでしょう。ゆめ部長も、価格の低い物件こそ手数料の見直しが必要だと考えていて、その提案はこちらの記事に書きました。
そのため、低価格物件の問題は、エージェント制の義務化をどのような報酬ルールと組み合わせるかによって、評価が変わります。それでも、ゆめ部長はエージェント制の義務化には反対です。残したいのは、両手仲介にもある売主さま側のメリットを、理解して選ぶ余地だからです。次の章で説明します。
両手仲介にも、売主さまのメリットがある
ここからは、業界20年超の実務経験から感じている、両手仲介のもう1つの側面を書きます。両手仲介は「会社がもうかる仕組み」というだけではありません。売主さまにとってのメリットもあります。
実務で感じるメリットは4つあります。①買主さま側の担当者の力量に、取引を左右されにくい。②連絡・日程調整・トラブル対応が伝言ゲームにならず、スピード感を持って動ける。③自社で撮影した写真・動画・VRを、問い合わせから契約まで活かし切れる。④問題を調査して解決した担当者が、買主さまへ直接説明できる。この4つの実例と仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎両手仲介とは?会社の利益が約2.5〜3.5倍に膨らむ仕組み|片手仲介との違い
この4つは、個別の取引で感じる実務上の価値です。一方で、担当会社を分け、誰の側に立つのかを明確にすることには、市場全体の公平性・透明性を考えるうえでの価値があります。個別の取引で両手仲介が便利だったからといって、会社を分ける仕組みの価値まで否定することはできません。
もちろん、両手仲介には利益相反という欠点があります。それでも、メリットとデメリットの両方があるものを、制度で一律に消してしまうのはもったいない。「両手=悪」と決めつけるのではなく、売主さまが両方を知ったうえで選べるようにする。ゆめ部長はそう考えます。
ゆめ部長の提言|エージェント制の義務化ではなく「選べる市場」へ
ここまでを踏まえて、ゆめ部長の提言はこうなります。
エージェント制の義務化には反対です。ただし、エージェント制を「選べる」市場になるのは大歓迎です。
「売主さまの味方だけをします」と宣言する片手専門の会社が現れる。両手仲介もあるけれど手数料を割り引く会社もある。定額制の会社も、フルサポートの会社もある。各社が自分の仕組みを設計して、売主さまに説明して、選んでもらう。それが健全な競争だと考えています。
判断基準は、いつも同じです。「売主さまが知って、選んでいるかどうか」。何を知るのか。両手仲介をするのかしないのか。誰の利益を優先して動くのか。料金はいくらで、両手仲介になった場合に手数料や会社の立場はどう変わるのか。各社がここを明らかにして、売主さまが比較できる市場です。国が仲介の形を一律に決めるのではなく、売主さまが仕組みを理解したうえで、自分に合う会社を選ぶ。これが守られていれば、エージェント制も、両手仲介も、市場の中で評価されていきます。
この「知って、選ぶ」という考え方は、真っ直ぐ不動産の3つの売却プランにもつながります。単に料金の違う3商品ではなく、仲介の立場・取引の進め方・料金の違いを理解し、売主さまが選べることに、3つの選択肢を用意する意義があります。プランごとの違いは、次の記事で比べられます。
▶︎【かんたん診断】ぴったりの売却プランはどれ?|真っ直ぐ不動産の3つのプランを比較
これから、DXやAIの活用で仲介の業務は効率化していくはずです。そうなれば、料金やサービスの設計の幅はさらに広がるでしょう。エージェント制を掲げる会社も含めて、いろんな形の仲介が並び、売主さまが比べて選べる。ゆめ部長が望むのは、そういう市場です。
最後に一言。担当会社を分ける価値を認めることと、エージェント制の義務化に賛成することは別です。「自分の側に立つ担当会社を選べる」ことは大切にしたい。そのうえで、「その会社は、誰の利益のために動いているか」も見てほしいのです。エージェント制という看板があってもなくても、ここを見抜く目は、売主さまの武器になります。
まとめ
- エージェント制には、売主さま側の担当会社を独立させる価値がある
- 残る利益相反は、担当会社を分ける価値を否定する理由にはならない
- エージェント制の義務化による低価格物件への影響は、報酬ルール次第
- 両手仲介には品質・スピード・広告・伝達の4つのメリットもある
- エージェント制の義務化ではなく、違いを知って選べる市場へ
エージェント制には、売主さまの側に立つ担当会社を、買主さま側から独立させる価値があります。しかし、会社が自社の成約を優先する利益相反②は、会社を分けても残ります。これは、担当会社を分けることが無意味だという話ではありません。
一方、現行の報酬ルールのままエージェント制の義務化を進めれば、価格の低い物件の売主さまに実害が出ます。そして、両手仲介そのものにも、取引品質の管理、スピード対応、広告力の活用、正確な情報伝達という売主さま側のメリットがあります。
ゆめ部長がエージェント制の義務化に反対するのは、利益相反が残るからではありません。両手仲介と片手仲介それぞれの違いを理解して、売主さまが選べる余地を残したいからです。エージェント制を選択肢に加えることは大歓迎。大切なのは、「知って、選ぶ」ことです。この記事が、その判断材料になればうれしいです。
関連記事
同じトピックの記事
不動産仲介の利益相反とは?会社を分けても消えない二重構造|業界20年のプロが解説
両手仲介とは?会社の利益が約2.5〜3.5倍に膨らむ仕組み|片手仲介との違い
関連トピック
不動産の囲い込みとは?売主を裏切る仕組みの全体像|業界20年のプロが解説
不動産売却はどこがいい?不動産会社の選び方5つの基準|大手と中小も比較
⚠️ 無断転載・コピーコンテンツは固くお断りします
© 真っ直ぐ不動産
本記事の文章・構成・図解・表現を、無断で転載・複製・要約改変・AI生成コンテンツの素材として利用することを固くお断りします。引用する場合は、出典元として本記事のURLを明記してください。