不動産売却の「抜き行為」はなぜなくならない?|レインズと都庁に聞いてわかった「処分できない」構造
不動産売却の現場には、「抜き行為」と呼ばれる横取り営業が存在します。ゆめ部長も、担当する売却物件で何度も被害にあってきました。手紙を持って売主さまの自宅を訪問してきた営業マン、専任物件へDMを送付してきた会社…。あまりにも頻発するので、東日本レインズと都庁の不動産業課へ直接電話をして、ルールと罰則の実態を確認してみました。
その結果わかったのは、「ルールはあるのに、実質的に処分できない構造」でした。
この記事は、売主さま向けの実務解説ではありません。レインズと都庁へのヒアリングでわかった事実をもとに、業界の仕組みと制度への問題提起をまとめた、ゆめ部長の提言です。なぜ抜き行為はなくならないのか。その答えを、一緒に見ていきましょう。
- 抜き行為を禁止するルールは存在する
- 罰則は『スーモを見た』の言い訳でかわされ実質機能していない
- 売主さまを巻き込まないと戦えない制度に問題がある
不動産仲介20年超の宅建マイスター、ゆめ部長が解説します。ゆめ部長は財閥系大手仲介会社から中小の不動産会社まで複数の会社で経験を積み、現在は売却専門の「真っ直ぐ不動産」を運営しています。大手・中小の両方を知るからこそ語れる「業界ルールの限界」をお伝えします。
「抜き行為」とは|売却中の売主さまを狙う横取り営業
まずは言葉の整理からです。不動産売却の「抜き行為」とは、売主さまがすでに不動産会社と媒介契約を締結しているにもかかわらず、他の不動産会社がその売主さまへ直接接触して勧誘し、媒介契約を奪い取る行為をいいます。窓口の不動産会社から、お客さまを「抜く」わけです。
売主さまへの接触手段は、DMの送付・手紙の投函・直接訪問などさまざまです。ゆめ部長の現場に実際に届いた手紙の実物・具体的な手口・売主さまが取るべき対処法は、売主さま向けの記事にまとめてあります。
▶︎『売却中に知らない不動産会社がDM・手紙投函・訪問|勧誘に乗ると違約金のリスク』で詳しく解説しています。
この記事で扱うのは、その先の話です。「悪いことだとわかっているのに、なぜ業界からなくならないのか?」という疑問に、ヒアリング結果で答えていきます。
ルールはあるのに機能していない現実
最初に確認しておきたいのは、抜き行為を禁止するルールは存在する、ということです。問題は、そのルールが機能しているかどうかにあります。
レインズ利用規定第14条と処分規定の存在
レインズ利用規定第14条(情報の利用)には「元付業者の承諾を得ることなく、売却等依頼者への連絡・交渉をしてはならない」と記載されています。さらに、東日本レインズの処分規定では、承諾を得ずに売主さまへ連絡・交渉した場合は「注意」または「戒告」、売買契約まで成立させた場合は「6か月以上のレインズ利用停止」の処分を受けるとされています。
6か月以上のレインズ利用停止は、不動産会社にとって死活問題です。文面だけ見れば、十分な抑止力を持ったルールに見えますよね。ところが、実態は違いました。
東日本レインズへ電話で聞いた答え
ゆめ部長が東日本レインズへ電話で質問したところ、返ってきた回答はこうでした。「レインズの登録情報を見て訪問していればアウトだけど、SUUMO・ホームズ・アットホームなどを見て訪問していれば、レインズからは罰則を出すことができない」。
この回答の意味を考えてみてください。売却物件の情報は、レインズ登録後に各社の広告活動を通してポータルサイトへも掲載されます。つまり、抜き行為をする側は「スーモで見ました」と言いさえすれば、罰則の対象から外れてしまうのです。レインズを確認したかどうかは本人にしかわからないのですから、罰則規定に最初から抜け道が組み込まれているのと同じです。
なお、救済の手段がないわけではありません。売主さまが「迷惑を被り困っているため対応策を講じてほしい」という意向であれば、経緯の報告書と証拠品を提供して事実確認をしてもらえます。その後は、相手の会社が加盟する業界団体とレインズが協力して調査し、規定に抵触していれば罰則の適用を検討する流れとのことでした。ただし、これは売主さまを巻き込んで初めて動く仕組みです。不動産会社同士の問題に、被害者でもある売主さまの協力が必須になっている時点で、ハードルの高さがわかると思います。
処分規定は「基準でしかない」という回答
ヒアリングで1番ひっかかったのは、この言葉です。注意・戒告・6か月以上の利用停止という処分規定について、「この規定は基準でしかない」という説明がありました。
基準でしかない、ということは、規定どおりに処分がくだされるとは限らない、ということです。明確な規定を作って、そのとおりに運用しなければ、ルールの意味がありません。処分規定が「基準でしかない」というのは、実質的に処分できないのと同じ意味だと感じました。
なぜ処分がくだせないのか|ゆめ部長の推測
ここからは、ヒアリング結果を踏まえたゆめ部長の考えです。事実と推測を分けて書きますので、その前提で読んでください。
まず事実として、ゆめ部長は大手仲介会社に抜き行為をされて、売買契約まで成立させられた経験があります。処分規定どおりなら「6か月以上のレインズ利用停止」に該当するケースです。しかし、大手仲介会社が6か月もレインズを利用できなくなる…そんな処分がくだされたという話は、この業界で聞いたことがありません。
ここからは推測です。処分規定を「基準」という曖昧な位置づけにとどめて運用しているのは、大手が訴えられたときに重い処分をくださずに済むようにするための余白なのではないか、と感じています。業界団体と役所のつながりが深い構造を考えると、天下りのような力学が処分をためらわせているのかもしれません。断定はできません。ただ、「規定はあるのに適用例を聞かない」という現実に説明をつけようとすると、そういう推測に行き着いてしまうのです。
都庁にヒアリングしてわかった宅建業法の限界
レインズ側の回答に納得がいかずモヤモヤしたので、次は不動産会社の免許権者である都庁の不動産業課にも電話をしてみました。
回答を要約すると、こうです。宅建業法は不動産会社からお客さまを守るための法律なので、不動産会社同士のトラブルには適用されない。売主さまが夜間に訪問されたり、しつこい勧誘を受けたりしていれば宅建業法違反として指導の対象になるが、直接訪問しただけでは宅建業法違反ではないため、都庁からの指導はない。
つまり、行政が動けるのは「売主さまが迷惑を被ったとき」だけです。抜き行為そのもの——不動産会社同士のお客さまの奪い合い——を取り締まる法律は、存在しないのです。
整理すると、こういう構造になっています。レインズの罰則は「スーモを見た」の一言でかわされる。宅建業法は業者間のトラブルに無力。残るのは、売主さまに協力してもらって「迷惑だ」と声を上げてもらうルートだけ。何の落ち度もない売主さまを巻き込まなければ戦えない仕組みになっている——これが、抜き行為がなくならない理由だとゆめ部長は考えています。
ゆめ部長の提言|罰則強化とルールの明確化を
批判だけで終わらせたくないので、ゆめ部長が考える改善の方向性を3つ提言します。
提言1:「レインズを見ていない」という言い訳の余地をなくすルールへ
売却中の物件へDMを送るなら、送る前にレインズへ登録されていないかを確認し、登録済みの物件を除外する。レインズの確認は1分・2分でできることですから、これを努力目標ではなく、はっきりとした義務として運用するべきです。「ポータルサイトで見たから」を言い訳として認めてしまえば、罰則規定は永遠に機能しません。
実は、この方向への動きは始まっています。東日本レインズは2024年9月30日付のREINS INFORMATIONで、登録物件の売主さまへ直接営業資料を郵送してくる会員への相談・苦情が増えているとして、DM送付等の営業活動の前にレインズ登録の有無を確認するよう注意喚起を出しました。レインズ情報をもとにしていない営業活動であっても、抜き行為と誤解されてトラブルに発展することがある、とまで踏み込んでいます。方向性は正しいと思います。次に必要なのは、注意喚起を「確認しなければ処分」という実効性のあるルールへ引き上げることです。

提言2:証拠と売主さまの証言があれば警告をすぐ出せる仕組みへ
現状の通報ルートは、報告書の作成・証拠品の提出・業界団体との連携調査と、手続きが重すぎます。届いたDM・手紙という物的証拠と、売主さまの「迷惑だ」という証言。この2つが揃っているなら、まず警告を1本すぐに出せる。それだけでも抑止力は大きく変わるはずです。時間のかかる正式な処分と、即応の警告。この2段構えが現実的だと考えます。
提言3:悪質・反復ケースへの重罰化
抜き行為の手紙を置いていった営業マンを後日調べてみたら、新人ではなく業歴7年の中堅でした。教育不足でうっかりやってしまった、という話ではないのです。会社ぐるみで、わかったうえでやっている。だとすれば、注意・戒告のような軽い処分を何度受けても行動は変わりません。悪質なケース・繰り返すケースには、レインズ利用停止を実際に適用する。「本当に処分される」という前例が1つできるだけで、業界の空気は変わると思います。
まとめ|売主さまを巻き込まないと戦えない制度に問題がある
専任媒介契約書の条文・レインズの利用規定と処分規定・都庁の不動産業課。ひととおり調べてわかったのは、抜き行為があっても不動産会社同士のトラブルでは処分をくだしにくいように、制度の側に余白が残されている、ということでした。
- 抜き行為を禁止するルールはあるが実質処分できない
- 宅建業法は不動産会社同士のトラブルに無力
- 罰則の実効化・警告の即応化・重罰化の3つを提言
1番の問題は、この構造が何の落ち度もない売主さまを巻き込むことです。売主さまの協力がなければ戦えない制度である以上、被害を防ぐ知識は売主さま自身に持ってもらうしかありません。実際に届いた手紙の実物と、勧誘に乗った場合のリスク、具体的な対処法は、こちらの記事で確認してください。
▶︎『売却中に知らない不動産会社がDM・手紙投函・訪問|勧誘に乗ると違約金のリスク』で詳しく解説しています。
また、抜き行為には購入側のバージョンもあります。買い替えで購入も同時に進めている方は、こちらもあわせて読んでみてください。
▶︎『内覧後・申込後・契約直前でも不動産会社は変更できる?|仲介手数料を請求される境界線』で詳しく解説しています。
証拠があって売主さまの証言があれば、警告をすぐに出せる業界になってほしい。真面目に仕事をしている不動産会社が損をしない業界になってほしい。ゆめ部長はこれからも、現場から声を上げ続けます。
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