仲介手数料の「成功報酬制」を議論したい!
不動産会社が仲介手数料を受け取れるのは、原則として売買契約が成立したときです。どれだけ時間をかけて仕事をしても、契約にならなければ報酬はゼロ。人件費や広告費、交通費などの経費だけが残ります。
このように、売買契約が成立したときにだけ仲介手数料が発生する仕組みを「成功報酬制」といいます。
成功報酬制は、お客さまにとって「結果が出なければ支払わなくていい」という安心につながります。
その一方で、不動産会社には大量の「タダ働き」を生みます。そして、この構造が強引な営業や両手仲介への執着、仲介手数料を下げづらい状況につながっていると、ゆめ部長は考えています。
では、成功報酬制は廃止した方がいいのでしょうか?
問題のある仕組みだとは思います。それでも、今は「廃止」を提案しません。
積上式の料金表やタイムチャージ制など、別の報酬体系も考えてみました。しかし、成功報酬制をやめれば問題が解決するほど単純ではなく、別の場所に新しい歪みが生まれるからです。
成功報酬制が生む問題と、廃止した場合に考えられる代替案を、不動産仲介の現場から考えてみます。
- 仲介手数料は「契約できれば100%、できなければ0」の成功報酬です
- 成功報酬制は、強引な営業や両手仲介への執着を生みやすい仕組みです
- 成約しなかった仕事のコストがあるため、仲介手数料を下げづらくなります
- 積上式やタイムチャージ制にも、それぞれ別の問題があります
- 問題はありますが、現時点では成功報酬制の廃止を提案しません
不動産仲介20年超の宅建マイスター、ゆめ部長が解説します。ゆめ部長は財閥系大手仲介会社から中小の不動産会社まで複数の会社で経験を積み、現在は売却専門の「真っ直ぐ不動産」を運営しています。大手・中小の両方を知るからこそ語れる「成功報酬制の裏側」をお伝えします。
※本記事は2026年8月の最新情報に対応しています。
仲介手数料は「All or Nothing」の成功報酬
成功報酬制の厳しいところは、どれだけ仕事をしても、最後に契約できなければ報酬が0円になることです。
契約できれば100%、できなければ0
たとえば、1年間で10回ほど物件を案内したお客さまがいたとします。
問い合わせへの対応、内覧予約、資料準備、移動、現地案内、内覧後のフォローまで含めて、1回の案内に3時間かかったとしましょう。10回なら合計30時間です。
それでも、最後に別の不動産会社で契約されれば、仲介手数料は0円。30時間の「タダ働き」になります。もちろん、人件費・広告費・交通費など、それまでにかかった経費も回収できません。
さらに、不動産会社が失うのは30時間分の労力だけではありません。その30時間を使って別のお客さまを案内したり、売却活動をしたり、新しい仕事を受けたりしていれば、別の売上につながった可能性があります。
つまり、契約にならなかった案件には、実際に使った時間や経費だけでなく、ほかの仕事に使えなかったことによる逸失利益もあります。
契約できれば100%、できなければ0。
この「All or Nothing」が、不動産仲介という商売の土台になっています。
仲介手数料の仕組みと相場の全体像は、▶︎不動産売却の仲介手数料ガイド|仕組み・相場・損しない選び方を徹底解説で詳しく解説しています。
成功報酬制が生む3つの歪み
成功報酬制は、お客さまにとってメリットがある一方、不動産会社の営業や報酬の取り方を歪める原因にもなっています。
ゆめ部長が特に大きいと考えているのは、次の3つです。
歪み1:経費倒れが、強引な営業につながる
不動産会社がお客さまと出会うための集客費も無視できません。
ゆめ部長が大手・中堅で働いていた10年ほど前でも、購入希望のお客さまを1組集客するために10万円前後かかることがありました。不動産価格が上昇し、1件の成約で得られる仲介手数料も大きくなった現在では、集客競争もさらに激化しています。
ただし、集客費は「1組いくら」だけでは比較できません。
たとえば売却の一括査定は、1件あたり2万円程度と比較的安く集客できます。その代わり、同じ売主さまが複数社へ一斉に紹介されるため競争が激しく、成約率も高くありません。安く集客できても、その多くが「タダ働き」で終われば、結局は成約した案件でコストを回収することになります。
一方、最近では、成約した場合に仲介手数料の一部を送客会社へ支払うサービスもあります。この場合、成約できても報酬のかなりの部分が集客コストになります。
入口で広告費を払うのか、成約したときに紹介料を払うのか。形は違っても、不動産仲介では、お客さまを獲得するために大きなコストがかかっています。
そして、どれだけ集客費や人件費をかけても、成約できなければ仲介手数料は0円です。「タダ働き」が増えれば経費倒れになり、会社の利益は出ません。当然、営業マンには「もっと契約を取れ」と強いプレッシャーがかかります。
その結果、断ってもしつこく連絡する。帰宅時間を狙って自宅前で待ち構える。子どもが寝る時間でも電話をかける。このような強引な営業をするようになります。
ゆめ部長が最初に勤務した会社では、
「契約になってないからまだ客じゃない!遠慮しないでガンガン電話しろ!!」
と言われました。
もちろん、強引な営業の原因が成功報酬制だけだとは考えていません。それでも、成約できなければ経費倒れになる仕組みが営業マンへのプレッシャーを強め、強引な営業を生みやすくしているのは、不動産仲介が抱える1つの歪みだと考えています。
歪み2:両手仲介への執着を強める
2つ目の歪みは、1件の契約から受け取る報酬をできるだけ大きくしたいというインセンティブです。
契約できない案件が一定数あるなら、契約できた案件からできるだけ多くの利益を得たくなるのは、会社経営として自然な流れです。そこで大きな意味を持つのが「両手仲介」です。
両手仲介とは、1つの取引で売主さま・買主さまの双方を同じ不動産会社が仲介し、双方から仲介手数料を受け取る形です。
会社の利益が大きく膨らむ仕組みは、▶︎両手仲介とは?会社の利益が約2.5〜3.5倍に膨らむ仕組み|片手仲介との違いで詳しく解説しています。
もちろん、両手仲介そのものが悪いわけではありません。問題は、「両手にしたい」という会社都合が、売主さまの利益より優先されたときです。
他社から買主さまを紹介されても、自社の買主さまが見つかるまで契約したがらない。他社へ物件情報を広く流さない。他社の買主さまで高く売れる可能性があるのに、自社の買主さまでまとめるために値下げを進める。
こうなると「囲い込み」につながり、売主さまが高く売れるチャンスを失うことがあります。
成功報酬制だけが両手仲介の原因ではありません。それでも、「タダ働き」が多いからこそ、契約できた案件では大きな報酬を取りたいという力が働き、両手仲介への執着を強める要因の1つになっていると考えています。
歪み3:仲介手数料を下げづらくする
3つ目は、仲介手数料の金額です。
成功報酬制では、成約しなかった案件に使った人件費や広告費も、最終的には成約した案件から得る利益で回収する必要があります。
たとえば、10組のお客さまへ対応して1組しか成約しなかったとします。その1組から得る売上で、10組分の人件費や広告費を支えなければなりません。
当然、1件あたりの仲介手数料を大きく下げれば、経営は厳しくなります。
その結果、仲介手数料は法律で定められた「上限」であるにもかかわらず、多くの不動産会社が上限いっぱいで請求し、「上限=実質的な相場」という状態が続きやすくなります。
成功しなかった仕事のコストまで、成功した案件で負担する。この構造も、仲介手数料の値下げが進みにくい理由の1つだと考えています。
ここまで見ると、「そんなに問題があるなら、成功報酬制をやめればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、廃止した後の仕組みを考えると、話はそれほど簡単ではありません。
成功報酬制を廃止したら、どうなる?
成功報酬制をやめるなら、働いた分の報酬を別の方法で支払ってもらう必要があります。
そこで考えられるのが、サービスごとに料金を設定する「積上式」や、働いた時間に応じて料金を受け取る「タイムチャージ制」です。
どちらも考え方としては理解できます。しかし、実際に置き換えようとすると、いくつもの壁にぶつかります。
壁1:仲介業務そのものは、自由に値づけできない
ここまで代替案を2つ挙げましたが、その前に確認しておきたいことがあります。実は、どちらも現行の法律のままでは実現できません。
宅地建物取引業法46条は、不動産会社が仲介で受け取れる報酬を、国土交通大臣が定めた範囲に限定しています。その中身を定めているのが「報酬告示」です。仲介の報酬は、この枠を超えて受け取ることができません。
つまり、内覧や書類の作成といった仲介の仕事を切り出して、1件いくらと値づけすることはできません。働いた時間に応じて報酬を受け取るタイムチャージ制も、仲介業務である以上は同じです。
一方、仲介業務とは別の不動産コンサルティング業務などについて、仲介手数料とは別に報酬を受け取れる場合があります。ただし、どこまでが仲介業務で、どこからが別の業務なのかという線引きがあり、仲介の仕事に「コンサルティング」という名前をつければ別料金にできる、という話ではありません。詳しくは▶︎不動産売却で仲介手数料以外の費用請求は原則「宅建業法違反」|都庁見解と対処法で解説しています。
ここまで書いてきた歪みを解消しようと別の報酬体系を考えても、仲介業務そのものについては、現行法の枠の中で自由に設計することができません。これが、成功報酬制を廃止しようとしたときに、最初にぶつかる壁です。
ただし、この壁だけは性質が違います。法律を変えれば取り払えるからです。問題は、取り払った先に何が待っているのか。ここから先の3つは、制度を変えても残る壁です。
壁2:無料だったサービスが有料になる
現在、多くの不動産会社では、相談、査定、物件資料の取り寄せ、現地案内などに個別の料金を請求していません。
大手ポータルサイトで、たくさんの物件情報や写真を無料で見られるのも同じです。不動産会社が掲載費を負担し、社員が現地へ写真を撮りに行き、間取図や紹介文を作成しています。お客さまは無料で利用できますが、情報を提供する側には当然コストがかかっています。
それでも、こうしたサービスを無料で提供できるのは、売買契約が成立したときに仲介手数料を受け取り、それまでにかかったコストをまとめて回収する成功報酬制だからです。
成功報酬制を廃止するなら、この「契約になるまでは無料」という仕組みも見直す必要があります。
たとえば、「相談30分で○円」「内覧1件で○円」「査定書作成で○円」というように、提供したサービスごとに料金を支払ってもらう方法が考えられます。
仕組みとしてはおかしくありません。サービスには本来コストがかかるのですから、利用した人が対価を支払うという考え方には合理性があります。
問題は、お客さまがそれを受け入れるかどうかです。
これまで無料だった相談や査定、内覧が突然有料になれば、「それなら無料で対応してくれる不動産会社に頼もう」と考える人も多いでしょう。1社だけが有料化しても、よほど高い専門性や信頼がなければ、お客さまに選んでもらうのは簡単ではありません。
だからといって、業界全体で一斉に有料化すれば解決する話でもありません。「結果が出るかわからない段階からお金を払う」という取引に、お客さまが納得できるかという問題が残ります。
サービスにはコストがかかる。でも、そのコストを成約前からお客さまに負担してもらうのは簡単ではない。
これが、法律の壁を取り払った先で待っている壁です。
壁3:積上式では「成果ゼロでも支払い」が残る
それなら、「使った人が、使った分だけ払えば公平なのでは?」という考え方もあります。たとえば、こんな料金表です。
| サービス | 料金例 |
|---|---|
| 質問への回答 | 2,000円 |
| 資料送付 | 5,000円 |
| 現地内覧 | 5,000円/1件 |
| 資金計算・相談 | 30,000円 |
| プレゼン立会 | 30,000円 |
| 売買契約書作成 | 100,000円 |
これは具体的な制度案ではなく、「成功報酬ではなく、仕事ごとに料金を受け取ったらどうなるか」を考えるための一例です。一見すると、利用した分だけ支払うので公平に見えます。
しかし、お客さま側から見ると大きな問題があります。成果が出なくても、支払いだけは残ることです。
成功報酬制なら、10件内覧して結局購入しなければ仲介手数料は0円です。積上式なら、内覧10件だけで5万円。そのほかにも相談料や資料作成料などが加算されるかもしれません。
売主さまなら、何ヶ月売却活動を続けても売れなかったのに、査定・広告・相談などの費用だけを支払う可能性があります。
つまり、成功報酬制には「結果が出なければ支払わなくていい」という、お客さま側の大きな安心があります。
また、制度の設計次第では、サービス料金を積み上げた結果、利用者の総負担が現在の仲介手数料の上限より大きくなる可能性もあります。逆に、すぐ契約できる案件では、不動産会社が受け取る報酬が現在より大きく減るかもしれません。
使った分だけ支払う仕組みは公平に見えますが、お客さまにも不動産会社にも、それぞれ納得しづらい部分が出てきます。
壁4:タイムチャージ制は逆方向の歪みを生む
もう1つ考えられるのが、弁護士などで採用されている「タイムチャージ制」です。働いた時間×時間単価で報酬を受け取ります。
不動産会社から見れば、「タダ働き」の問題はかなり小さくなります。10回案内すれば10回分、売却活動が長く続けば、その間に働いた時間も報酬になります。
しかし、売主さまから見ると別の問題が出てきます。
たとえば、「急いで安く売るより、1年かかっても高く売りたい」という売却戦略を選んだとします。成功報酬制なら、時間がかかっても成約しなければ仲介手数料は発生しません。ところがタイムチャージ制なら、時間をかけるほど費用が増えていきます。
内覧をたくさん受けて条件の良い買主さまを待つ。値下げせずにじっくり売却する。こうした戦略を取るほど、売主さまの支払いが増える可能性があります。
さらに、報酬設計によっては、不動産会社側にも逆方向の歪みが生まれます。時間をかけるほど売上が増えるのであれば、「できるだけ早く、良い条件で成約させよう」という動機が弱くなる可能性があるからです。
成功報酬制では「早く契約したい」という圧力が問題になる。一方、タイムチャージ制では「長引いても困らない」という逆向きの問題が生まれるかもしれません。
成功報酬制をやめれば歪みが消えるわけではありません。歪みの場所が移動する可能性があります。
積上式もタイムチャージ制も、検討する価値のある仕組みだと思います。ただ、「成功報酬制をやめれば、不動産仲介の問題が解決する」というほど単純ではありません。
結論|今は「廃止」を提案しません
成功報酬制には、強引な営業や両手仲介への執着、仲介手数料を下げづらいといった問題があります。
しかし、積上式やタイムチャージ制に変えても、今度は別の歪みが生まれます。どの仕組みにも一長一短があり、制度を変えるだけで解決するほど単純ではありません。
だから、ゆめ部長は現時点で成功報酬制の「廃止」を提案しません。
成功報酬制を守りたいわけではなく、もっと公平で、売主さま・買主さまと不動産会社の双方が納得できる報酬体系が見つかれば、変えていけばいいという考えです。
なお、「成功報酬制の廃止」と「仲介手数料の自由化」は別の論点です。仲介手数料の自由化については、▶︎仲介手数料の「自由化」を提案したい!で詳しく書いています。
まとめ
- 仲介手数料は「契約できれば100%、できなければ0」の成功報酬です
- 成約できなければ経費倒れになる仕組みが、強引な営業を生みやすくします
- 成功報酬制は、両手仲介への執着や仲介手数料を下げづらい状況にもつながります
- 積上式やタイムチャージ制にも、それぞれ別の問題があります
- 成功報酬制には問題がありますが、現時点では廃止を提案しません
この記事も、議論のたたき台として公開しました。いろいろな意見が出て、不動産仲介の報酬のあり方について議論が深まればうれしいです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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