不動産仲介の利益相反とは?会社を分けても消えない二重構造|業界20年のプロが解説

不動産仲介の利益相反とは?会社を分けても消えない二重構造

「両手仲介は利益相反だから危険。片手仲介の会社を選べば安心」——不動産売却について調べていると、必ずこの主張に出会います。

半分は正しい。でも、半分は間違っています。

実は、片手仲介にしても、売主さまを取り巻く利益相反は消えません。7,800万円のマンションで、売主さまの知らないところで「200万円までなら下がる」という本音が相手側に漏れる——そんなことが、片手仲介でも起きるからです。

なぜ消えないのか。カギは、ゆめ部長が「二重の利益相反」と呼んでいる構造にあります。

▼この記事でわかること(結論)
  • 不動産仲介の利益相反は2種類ある:①売主さまVS買主さま、②売主さまVS仲介会社(=二重の利益相反)
  • 片手仲介が解消できるのは「1社が両方を担当する状態」だけ。②の利益相反は片手でも残る
  • 7,800万円のマンション事例:片手仲介でも、担当者同士の結託で売主さまの本音が相手側に渡る
  • 米国の研究:エージェントは自分の家なら約3.7%高く・9.5日長く粘って売る(約9万8,000件の実証)
  • 法律の空白:民法108条が禁じるのは双方「代理」。宅建業法は両手仲介を禁止も容認もしていない
  • 大切なのは「両手か片手か」ではなく、売主さまVS仲介会社の利益相反をどう管理するか

不動産仲介20年超の宅建マイスター、ゆめ部長が解説します。ゆめ部長は財閥系大手仲介会社から中小の不動産会社まで複数の会社で経験を積み、現在は売却専門の「真っ直ぐ不動産」を運営しています。大手・中小の両方を知るからこそ語れる「利益相反の正体」をお伝えします。

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。

よくある通説|「利益相反だから両手仲介はダメ、片手なら安心」

まず、検証する主張を正確に押さえましょう。両手仲介への典型的な批判は、こういうロジックです。

売主さまは高く売りたい。買主さまは安く買いたい。利害が正反対の2人の間に、1つの会社が入る。両方の味方は同時にできないのだから、両手仲介はダメ。売主側と買主側に別々の会社がつく片手仲介を選ぶべきだ——。

前半は、そのとおりです。同じ担当者が、買主さまに「9,500万円で申込みましょう」と助言しながら、売主さまに「9,800万円まで粘りましょう」と助言することはできません。双方の利益を同時に最大化するのは、物理的に不可能です。

ゆめ部長も、両手仲介に利益相反があること自体は否定しません。むしろ、世間で語られているより根が深いと考えています。

問題は後半——「だから片手仲介なら安心」の部分です。

この記事では、この「だから」を3つの方向から検証します。実際の交渉現場で何が起きるか(実例)。エージェントは本当に依頼者のために粘るのか(データ)。法律は利益相反をどう扱っているか(法制度)。

結論を先に言えば、片手仲介にしても利益相反は消えません。そして、消えない理由を知ることが、売主さまの本当の防御になります。

売主さまと買主さまの対立は、仲介の形と関係なく存在する

最初に、勘違いされやすいポイントを整理します。

売主さまと買主さまの利害対立は、両手仲介が作り出すものではありません。取引そのものに、最初から埋まっています。

売主さまは1円でも高く売りたい。買主さまは1円でも安く買いたい。これは仲介会社が1社だろうと2社だろうと変わりません。

対立するのは価格だけではありません。引渡しの時期(売主さまは住み替え先の都合に合わせたい・買主さまは早く入居したい)、設備の扱い(エアコンを残すか撤去するか)、契約条件(契約不適合責任の範囲・手付金の額)。決めることの多くで、両者の希望は反対を向きます。

ここで大切なのは、「成約というゴールが同じであること」と「利害が一致していること」は別物だ、という点です。

売主さまも買主さまも「この取引をまとめたい」と思っています。ゴールは同じです。でも、どの価格で・どの条件でまとめるかについては、綱引きの関係にあります。ゴールが同じだから味方同士、ではないのです。

つまり、売主さまVS買主さまの緊張関係は、両手か片手かに関係なく、常に存在します。では、片手仲介にすると何が変わって、何が変わらないのか。実際の価格交渉の現場を見てみましょう。

7,800万円のマンションで起きること|片手仲介でも利益相反は残る

ゆめ部長が20年見てきた、片手仲介の価格交渉のリアルです。

7,800万円で売り出し中のマンションに、300万円引きの7,500万円で購入申込が入りました。売主さま側にはA社、買主さま側にはB社。別々の会社がつく、片手仲介の取引です。

売主さま担当(A社)は、売主さまと相談しました。答えはこうです。

「7,500万円は厳しい。最悪7,600万円ならいいけど、とりあえず7,700万円で回答してほしい」

一方、買主さま担当(B社)は、買主さまからこう言われていました。

「7,500万円が通ればラッキー。正直、7,800万円は高いから、7,600万円になれば買う」

ここまでは、ごく普通の交渉です。お互いの本音が守られていれば、7,700万円の回答から綱引きが始まり、7,650万円や7,700万円での着地も十分あり得ました。

ところが、ここに担当者側の事情が乗ります。

売主さま担当は、媒介契約の期限が近づいていて、売主さまから「次は更新しない」と言われています。早く決めなきゃ……と焦っている。買主さま担当は、今月の売上がゼロで、上司がピリピリしている。

こうなったら、どうなるか。

買主さま担当「ぶっちゃけ、いくらまでなら下がります?」

売主さま担当「いや、ウチも決めたくてさー。内緒だけど、200万円ならいけると思うよ」

買主さま担当「マジっすか!ウチの客も200万円引きなら前向きですよっ!」

売主さま担当「じゃあ、それで決めちゃおうぜ」

——こうして、表の交渉が始まる前に、着地点は7,600万円で固まってしまいました。あとは各担当者が「先方と粘り強く交渉した結果です」という顔で、依頼者に持ち帰るだけです。

恐ろしいのは、数字だけ見れば丸く収まっていることです。売主さまは「最悪ライン」の7,600万円で売れた。買主さまは希望どおり7,600万円で買えた。双方の本音の限界がたまたま同額だったので、誰も文句を言いません。売主さまが裏側に気づくことは、まずありません。

でも、実際に起きたことはこうです。守られるはずだった売主さまの本音——「200万円までなら下がる」——が、交渉の入口で相手側に渡った。7,700万円から粘るチャンスは、その瞬間に消えました。

しかも、裏切ったのは売主さま側の担当者だけではありません。買主さまの上限「7,600万円なら買う」を漏らしたのは、買主さま担当です。両側の担当者が、対称的に、自分の依頼者を裏切っています。売主さまも買主さまも被害者で、得をしたのは早く決めたかった担当者たちだけです。

会社を2つに分けても、担当者それぞれの都合は消えない。だから、結託は片手仲介でも起きる。これがこの事例の教訓です。

囲い込み業者の場合分け|片手仲介のとき・両手仲介のとき

先ほどの2人は、囲い込みをするような担当者ではありません。ごく普通の担当者が、期限とノルマに追われて堕ちた、という話です。

では、日頃から囲い込みをしている会社が売主さま側についたら、どうなるか。片手・両手のそれぞれで場合分けしてみます。

片手仲介になりそうなとき(他社経由の買主さまで話が進みそうなとき)

囲い込み業者の動きは、「自社で買主さまを見つけて両手にできる可能性が、まだ残っているか」——この1点で正反対に分かれます。

両手の可能性がもう残っていない場合——自社に買主候補がおらず、この他社経由の話で決めるしかない場合——は、成約優先に切り替わります。会社の売上都合、営業マンのノルマ都合で「決まる話は決める」。買主側の会社と連携して、成約を目指します。

両手の可能性がまだ残っている場合は、逆の動きをします。売主さまの「完全な味方」を演じて、他社経由の価格交渉やその他の条件交渉を徹底的に断り、購入申込を妨害するのです。狙いは、他社の話を潰して時間を稼ぎ、自社の買主さまで両手に持ち込むこと。

怖いのはここです。交渉を断る姿は、売主さまの目には「一切妥協しない、頼もしい担当者」に見えます。妨害と忠誠は、外からは区別がつきません。

▶︎不動産売却の囲い込みの見抜き方|業者の手口30選を6パターンで分類

両手仲介になったとき

売主さまが損をしようと、買主さまが損をしようと、関係ありません。とにかく、両手で契約できればOK。

買主さまが弱気なら売主さまの味方のように振る舞い、売主さまが弱気なら売主さまの敵に回ります。どちらの味方をするかは、正しさではなく「どちらを押せば決まりやすいか」で決まります。

この場合分けからわかること

片手のときは、両手の芽があるかどうかで妨害と連携を使い分ける。両手のときは、弱い方を押して決めにいく。どちらの形でも、会社と担当者の都合が売主さまの利益より先に来ています。

だから、ここから言えるのは「だから片手仲介が良いんだ、という主張は間違っている」ということです。片手仲介にすれば両手仲介の問題が消える、とは言えない——それがこの章の結論です。一方で、両手仲介そのものの利益相反が消えたわけでもありません。それは、次の章で正面から扱います。

二重の利益相反とは?|売主さまVS買主さま・売主さまVS仲介会社

ここまで、片手仲介でも利益相反が残る現場を見てきました。この章では、その現象に名前をつけて整理します。

不動産仲介には、性質の違う2種類の利益相反が存在します。ゆめ部長はこれを「二重の利益相反」と呼んでいます。世間の議論が混乱する最大の原因は、この2つをごちゃ混ぜにしていることです。

利益相反①:売主さまVS買主さま

1つ目は、売主さまと買主さまの利益相反です。

先ほど見たとおり、売主さまは高く売りたい・買主さまは安く買いたいという対立は、取引そのものに埋まっています。両手仲介では、この対立する2人を、同じ会社・同じ担当者が同時に抱えます。一方に誠実であろうとすれば、もう一方を裏切ることになる。

世間で「両手仲介は利益相反だ」と言われるとき、指しているのはほぼこの①です。そして、①の批判自体は正しい。両手仲介の構造的な弱点であることは間違いありません。

でも、①だけでは説明がつかないことがあります。7,800万円の事例です。あの取引は片手仲介で、①は最初から分離されていました。それでも売主さまの本音は漏れた。①では説明できない何かが、もう1つあるのです。

利益相反②:売主さまVS仲介会社(プリンシパル=エージェント問題)

2つ目が、売主さまと仲介会社の利益相反です。こちらは、あまり語られません。

売主さまの望みは「時間がかかっても、できるだけ良い条件で売りたい」。一方、仲介会社には別の経済的な動機があります。仲介手数料は成功報酬なので、成約しなければ収入は0円。かけた集客コストを回収するには、早く成約して報酬を確定させたい。両手仲介になれば、売主さま・買主さまの双方から仲介手数料を受け取れる。——売主さまの利益と、会社の利益は、同じ方向を向いていないのです。

経済学では、これを「プリンシパル=エージェント問題」と呼びます。依頼人(プリンシパル=売主さま)と、仕事を任された代理人(エージェント=仲介会社)の利益が一致しないとき、代理人が自分の利益を優先してしまう問題です。

ここで確認しておきたいのは、仲介会社が負っている義務です。媒介契約を結んだ仲介会社は、売主さまのために動く義務を、法律上きちんと負っています。民法の善管注意義務——プロとして期待される注意を尽くし、委任の本旨、つまり売主さまの目的に従って業務を処理する義務です。詳しくは後半の法律の章で整理します。

つまり、義務のうえでは「売主さまのために働け」と決まっている。ところが、報酬の仕組みが生む現実の動機は、先ほど見たとおり逆を向きます。早く決めたい。できれば両手にしたい。——義務と動機の、このギャップが②の正体です。

さらに、②には拍車をかける要素があります。情報の非対称性です。仲介会社が水面下でどう動いているか——他社からの問い合わせを正直に取り次いでいるか、「商談中です」という説明は本当か——を、売主さまの側から完全に確かめる方法はありません。監視できない相手との利益相反。だから②は、①よりも見えにくく、根が深いのです。

先ほどの7,800万円の事例を思い出してください。売主さまを裏切ったのは、対立相手の買主さまではありません。味方のはずの、自分の担当者でした。売却を終えた売主さまが、後からしみじみ漏らすことがあります——「最大の敵は不動産屋だった」。この言葉が指しているものこそ、②です。

片手仲介が解消するのは①だけ|②は片手でも残る

2種類を分けて見ると、片手仲介の「本当の効果」が正確にわかります。

片手仲介(分かれ)とは、利益相反をゼロにする仕組みではありません。売主側と買主側に別の担当者を置いて、①を分離する仕組みです。「1つの会社が、対立する2人を同時に抱える」という両手特有の状態——それだけを解消します。

②は、片手にしても消えません。売主側のA社は売主さまから、買主側のB社は買主さまから、それぞれ成功報酬を受け取ります。早く決めて報酬を確定させたい動機は、会社を2つに分けても、それぞれの会社の中にそのまま残ります。

そして、ここが「二重」と呼ぶ理由の核心です。②が残っている限り、①の戦場——売主さまと買主さまの綱引き——も歪みます。本来は売主さまのために戦うはずの担当者が、自分の都合で綱を緩めるからです。片手仲介は①への対処にはなりますが、②が残る以上、交渉が歪む可能性そのものは消えないのです。

なお、逆方向の間違いにも注意してください。「②は片手でも消えない。だったら①(両手仲介)も問題ではない」という論法です。これは成立しません。②が消えないことは、①を放置していい理由にはならないからです。①と②は別の問題で、別の対処が要る——それが「二重の利益相反」という整理の結論です。

データの裏付け|レヴィット研究と日本の理論研究

「②なんて、疑いすぎでは?」と感じた方もいるかもしれません。ここまでの話が、現場を知る1人の証言にすぎないのかどうか。データで確かめましょう。

エージェントは自分の家を約3.7%高く・9.5日長く売る

世界的ベストセラー『ヤバい経済学』で紹介された、シカゴ大学のスティーヴン・レヴィット教授らの研究(2008年)があります。

この研究の設計は秀逸です。不動産エージェントが「他人の家を売るとき」と「自分の家を売るとき」を比べました。自分の家を売るときは、依頼する売主とエージェントが同一人物——つまり②の利益相反が存在しない状態です。②がないとき、エージェントはどんな売り方をするのか。

対象は、シカゴ郊外の住宅売買データ約9万8,000件(うちエージェント自身が所有する物件が約3,300件)。立地や物件条件の違いを統計的にそろえた上で比べた結果は、こうでした。

エージェントは、自分の家なら約3.7%高く売り、市場に出す期間を9.5日長く取っていた。

つまり、エージェントは「粘れば、もっと高く売れる」ことを知っています。知っていて、他人の物件では粘らない。理由は報酬の仕組みです。粘って価格を上乗せしても、増えた分のうち担当者個人の取り分はごくわずか。それなら早く決めて次の案件に移るほうが、合理的なのです。7,800万円の事例で、200万円の上乗せに何週間も付き合う動機が担当者に薄かったのと、同じ構造です。

この数字を日本に当てはめるときは、1つ注意が必要です。米国のエージェントは、日本の営業マンのように会社に雇われているわけではありません。ブローカーと呼ばれる免許業者に所属はしますが、その関係は雇用ではなく、成約時の歩合を分け合う独立契約者(個人事業主)が標準です。固定給はなく、報酬は成約したときの歩合のみ。日本のように、会社に雇われた営業マンが月次ノルマと上司の詰めに追われる構造が、そもそもありません。

「それでも、次の顧客を得るために良い実績は欲しいはずでは?」と思った方は、鋭い。そのとおりで、米国には顧客からの評判がエージェントの生命線になる文化があります。この研究の価値は、その評判の力が働く市場でなお、3.7%・9.5日の差が出たことを示した点にあります。

つまりこの差は、「少し高く売っても自分の報酬がほぼ増えない」という弱い動機だけで生まれた数字です。日本では、ここに固定給の赤字リスク・月次ノルマ・上司のプレッシャーという、もっと強い動機が丸ごと乗ります。弱い動機しかない市場ですらこの差が出た——日本では、これが下限と考えるべきです。

日本の研究も同じ構造を指摘している

日本の研究者も、この構造を理論の側から指摘しています。

3人の経済学者による理論研究(山崎福寿・瀬下博之・定行泰甫「不動産仲介の兼任制度に関する理論的基礎について」『応用地域学研究』2019年)は、両手仲介と片手仲介で価格と取引の決まり方がどう変わるかをモデル化しました。興味深いのは、この研究が「両手=悪」とは結論づけていないことです。両手仲介の提示価格はむしろ高くなる、取引の成立しやすさは市場の状況次第で優劣が入れ替わる——単純な善悪では割り切れない、と示しています。

一方で、不動産学の研究(前川俊一「既存住宅市場における情報の非対称性とそれに対する対策」『土地総合研究』2017年冬号)は、仲介業者にとって最適な売出価格は、売主さまにとっての最適額より低くなり、両手仲介を狙う業者ではさらに低くなることを理論的に示しています。売主さまVS仲介会社の利益相反は、研究の世界では、まさにエージェンシー問題として扱われている定番のテーマなのです。

整理します。②は、ゆめ部長の感想ではありません。実証データと理論研究の両方で確認されている構造です。だとすると、問題の立て方そのものを変える必要がありそうです。ただ、結論へ進む前に、もう1つだけ。法律は、この利益相反をどう扱っているのでしょうか。

双方代理との違い|法律は両手仲介の利益相反を判断していない

「両手仲介は違法では?」——この疑問には、はっきり答えられます。違法ではありません。ただし、その理由を正確に知ると、「違法じゃないなら安心」とも言えないことが、同時にわかります。

民法108条が禁じているのは双方「代理」

民法108条は「双方代理」を禁じています。同じ人が、契約の当事者双方の代理人になることです。ここでいう禁止は、罰則で罰するという意味ではありません。双方代理にあたる行為は原則として無権代理——本人が追認しない限り、契約の効果が生じない扱い——になる、という形の禁止です。

なぜ禁じられているのか。代理とは、代理人がした契約の効果が、本人にそのまま帰属する仕組みだからです。売主の代理人は、売主に代わって「売る」と決められる。買主の代理人は、買主に代わって「買う」と決められる。この決定権を持つ1人が両方を兼ねたら、どちらかに不利な内容で契約を確定させることができてしまう。だから法律は、双方の代理を兼ねること自体を禁じました。

身近な例が弁護士です。離婚訴訟で、夫側と妻側の弁護士が同一人物だったら、誰でもおかしいと感じるはずです。実際、弁護士が対立する双方の代理人になることは禁じられています。

では、不動産仲介はどうか。仲介(媒介)は、代理ではありません。仲介会社の仕事は、売主さまと買主さまを引き合わせて条件調整を手伝う「あっせん」であり、契約するかどうかの決定権は、売主さま・買主さま本人に残ります。本人の決定権を奪わない以上、民法108条の禁止は及ばない——これが、両手仲介が適法とされる法的な理由です。

売主さまのために動く義務は、ちゃんとある

「媒介は代理ではない。じゃあ、仲介会社には売主さまのために動く義務もないのか?」——ここを勘違いしている業界人は、実は少なくありません。義務は、あります。

まず民法644条。受任者は「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を負います。善管注意義務と呼ばれるものです。ポイントは「委任の本旨に従い」の部分。単に「注意深くやれ」ではなく、売主さまの目的に従って処理せよ、という義務です。学説では、売主さまから預かった情報をその売主さまのためにだけ使い、自分や第三者の利益のために使ってはならない、という内容もこの義務に含まれると理解されています。7,800万円の事例で担当者がやったこと——売主さまの本音を自分の都合のために相手側へ渡す——は、この考え方の正反対です。

さらに、媒介契約書にも義務が書かれています。国土交通省の標準媒介契約約款には、契約の成立に向けて積極的に努力する義務(積極的努力義務)が定められています。売主さまが結んだ媒介契約書にも、この条項が入っているはずです。

ただし、中身をよく見てください。積極的努力義務は「成約に向けた努力」の義務です。「できるだけ高い価格で売る義務」でも、「利益相反を避ける義務」でもありません。ここが、次の話につながります。

欠けているのは「利益相反の禁止」の明文

では、業界のルールブックである宅建業法はどうでしょうか。宅建業法に、両手仲介を禁止・制限する条文はありません。報酬のルールも、売主さま・買主さまのそれぞれから仲介手数料(上限:成約価格×3%+6万円・税抜)を受け取ることを前提に、上限を定めています。

ここで、よくある誤解を1つ、正しておきます。「法律が両手仲介を認めている。つまり、両手仲介は利益相反に当たらないと法的に整理されている」という説明です。ネット上で、ときどき見かけます。

これは飛躍です。宅建業法は両手仲介を規制していない——それだけであって、「利益相反ではない」と認定した条文は、どこにもありません。そもそも、高く売りたい売主さまと安く買いたい買主さまの双方に義務を負う状態は、利益相反が消える理由ではなく、利益相反そのものの定義です。

それどころか、宅建業法には逆方向を向いた条文すらあります。31条1項——「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない」。注目してほしいのは「依頼者に対し」ではなく「取引の関係者に対し」と書かれていることです。売主さまだけでなく、買主さまを含む取引の関係者みんなへの誠実を求める建て付けで、1社が双方に関わる両手仲介を、はじめから前提にした条文になっています。

整理すると、日本の法律はこうなっています。売主さまのために動く義務は、ある(民法644条・媒介契約の積極的努力義務)。でも、利益相反を禁じる明文は、どこにもない。そして業法は、利害が対立する双方への誠実を、同時に求めている——。

民法108条が双方代理を禁じた理由を思い出してください。「1人が対立する両者の間に立つと、どちらかが不利益を被りやすいから」でした。その心配される事態は、7,800万円の事例のとおり、媒介でも同じように起きます。それなのに、媒介の世界にはこの心配に対応する禁止規定がない。これが、法律の「空白」の正体です。

相手方への義務もある。ただし、種類が違う

ここで、もう1つの説明を検証しておきます。「片手仲介は、売主さま側と買主さま側が別々に動くのではなく、2社で1つの取引を担う共同仲介。だから相手方にも責任を負う対等な関係で、そもそも利益相反という枠組みが成り立たない」——これも、ネット上で見かける説明です。

相手方への責任は、実際にあります。たとえば重要事項説明(宅建業法35条)。分かれ取引でも、売主さま側の会社は買主さまへの重要事項説明書に記名して、内容に責任を負います。大切なことをわざと隠す・事実と違うことを告げるのも、相手方に対して禁止されています(宅建業法47条)。ここまでは、そのとおりです。ただし、この責任は媒介契約から生まれるものではありません。売主さま側の会社が媒介契約を結んでいる相手は、売主さまだけ。買主さまとの間に契約はなく、相手方への責任は宅建業法と信義則が課しているものです。

そして、義務の中身をよく見てください。重要事項の説明、不告知や嘘の禁止、31条の信義誠実——どれも「正確な情報を伝える」「騙さない」「取引の安全を守る」ための義務です。どの条文を探しても、「相手方の利益追求を手伝う義務」は出てきません。買主さまのために1円でも安くする交渉に、売主さま側の会社が協力する義務など、どこにもないのです。

つまり、義務は2種類あります。取引に関わる全員への「騙さない・害さない」義務。これは手段の下限です。そして、依頼者への「あなたの目的のために働く」義務(先ほど見た民法644条の善管注意義務)。これは働く方向です。下限と方向は、ぶつかりません。売主さまのために価格交渉で粘ることと、買主さまに嘘をつかないことは、同時にできます。ぶつかるのは「依頼者のために相手を騙す」場面だけで、そこは31条・47条が手段に蓋をします。

弁護士も、同じ構造で仕事をしています。弁護士は相手方を騙せません。それでも、依頼者のために働きます。「相手方に嘘をつけないのだから、誰の味方でもない」とは、誰も言いません。ルールを守ることと、依頼者の味方であることは、両立するのです。

逆に、「双方に責任がある=誰の味方でもない=利益相反しない」が本当に成り立つなら、おかしなことが2つ起きます。1つ目。売主さまが自分の仲介手数料を払って媒介を頼む理由が消えます。誰の味方でもない人に、なぜ報酬を払うのでしょうか。2つ目。売主さまの「200万円までなら下がる」という本音を相手側へ渡すことまで、「対等な関係だから」で正当化できてしまいます。7,800万円の事例で見た結託を、理屈の側から追認する話になってしまうのです。

だから、「相手方にも責任がある」は本当でも、そこから「利益相反しない」は出てきません。相手方への義務は取引の安全の話、利益相反は「誰のために働くか」の話。土俵が違います。むしろ、依頼者のために粘る役割を「双方への誠実」を理由に緩める説明を聞いたら、注意してください。その理屈で得をするのは、早く決めたい仲介会社——②の利益相反が、理屈の形で顔を出しているかもしれないのです。

アメリカでは多数の州が規制している

「法が規制していない=問題がない」ではありません。その証拠が、アメリカです。

アメリカの仲介は「代理(エージェンシー)」制度です。エージェントは売主または買主の代理人として、依頼者への忠実義務を負います。だからこそ、1社が双方の代理を兼ねるデュアル・エージェンシー(両手)は正面から問題視され、多数の州が規制しています。禁止する州もあれば、双方への書面開示と同意を義務付ける州が多数あります。

同じ「両手」でも、日本は媒介(代理ではない)だから法の外、アメリカは代理だから法の網の中——制度の形式の違いが、規制の有無を分けているだけです。利益相反という実態は、太平洋のどちら側でも変わりません。

同じ7,800万円で、まっとうな担当者なら何をするか

ここまで、利益相反が発火したときの怖さばかりを見てきました。でも、構造があることと、担当者が必ず自分の都合で動くことは、別の話です。

同じ7,800万円のマンションで、今度は1社が売主さま・買主さまの両方を担当する両手仲介だったとします。買主さまからは7,500万円での購入申込。買主さまの本音は「7,600万円までなら買う。でも300万円は交渉したい」、売主さまの本音は「200万円までは値下げのバッファとして考えている」。

担当者の都合が優先されると、こうなります。売主さまの限界は7,600万円、買主さまの上限も7,600万円。「じゃあ7,600万円で」——最短で契約が成立する地点に、そのまま着地させる。双方とも希望の範囲内なので、誰も文句を言いません。でも、どちらにとっても最高の結果ではありません。

では、利益相反を管理できている担当者なら、同じ場面で何をするのか。

売主さまには、こう伝えます。「7,500万円で購入申込が入りました。値下げを希望する理由ですが、住宅ローン金利の上昇、修繕積立金や固定資産税の値上がりで毎月の出費が増えていて、支払額を月◯◯万円に収めたいとのことでした。今の金額では予算をオーバーするため、交渉したいと伺っています」

買主さまには、こう伝えます。「7,500万円での交渉は厳しいと思われます。内覧数が増え、ほかにも事前審査に進んでいる方がいるなど、この物件が注目を集めている状況だからです。査定金額の根拠もご説明します。もちろん、価格交渉のご希望は承ります。買主さまは住宅ローンの審査が内定していること、勤務先が上場企業で取引の安全性が高いこと——この強みを売主さまにアピールしてきます」

違いが見えるでしょうか。双方の要望を聞き、開示していい条件は開示し合う。そこに宅建士として、販売状況・今後の売却可能性・査定金額の根拠についての意見を足す。そのうえで、双方が納得できるラインを本人たちに探してもらう。

ここで決定的に大切なのは、預かった交渉上の秘密——「7,600万円までなら」「200万円までなら」——を、相手側に渡していないことです。渡しているのが、この記事の前半で見た結託でした。渡さずに、判断材料だけを両方に出す。この線を越えるか越えないかが、利益相反を管理できているかどうかの分かれ目です。

もう1つ条件があります。買主さまに伝えた「ほかにも事前審査に進んでいる方がいる」は、事実である場合にかぎり成立します。事実でないなら、それは売主さまの味方をしているのではなく、ただ買主さまを煽って決めにいく営業トークです。良い担当者と悪い担当者を分けるのは、何を言ったかではなく、言ったことが事実に基づいているかどうかです。

担当者が売主さまや買主さまの背中を押すこと自体も、悪ではありません。早く売らなければならない事情があるなら売主さまの背中を押しますし、ほかで決まってしまいそうなら買主さまの背中を押します。それをすべて「仲介会社の都合だ」と言われてしまえば、仲介という仕事は成立しません。

問われるのは、誰のために、何を根拠に押したのかです。「早く契約したいから」で押したなら、それは②の利益相反そのもの。「この販売状況なら受けたほうがいい」「この競争状況なら価格を上げたほうがいい」という専門家の判断で押したなら、それは仕事です。

この担当者のもとでも、②の利益相反は消えていません。早く決めたい動機は、構造として残ったままです。それでも、弊害は大きく抑えられています。つまり「利益相反があるかないか」ではなく、あるものをどう管理しているか——問題の立て方は、ここに移るのです。

結論|「両手か片手か」ではなく、利益相反をどう管理するか

ここまでの検証を、一度並べます。売主さまVS買主さまの対立は仲介の形と関係なく存在する。片手仲介でも、担当者の都合で売主さまの本音が漏れることがある。利益相反は2種類あり、片手仲介が分離できるのは①だけで、②売主さまVS仲介会社は片手でも残る。データも理論も②の実在を裏付けている。そして法律は、両手仲介を禁止していないが「利益相反ではない」とも言っていない。

この検証から、事実として言い切れるのは、次の一文だけです。

利益相反する関係者の中に1社が両手仲介で入れば、どちらかに損をさせる可能性があるから良くない。

逆に言えば、これ以外のことは言い切れません。「両手仲介=違法・不当」とまでは言えません。法は規制していないからです。「両手でも理論上は利益相反しない」とも言えません。そんな認定は存在しないからです。可能性の話なので「両手なら必ず損する」とも言えないし、ここまで見てきたとおり「片手にすればその可能性が消える」とも言えません。

だとすれば、売主さまが問うべきは「両手か片手か」という形式ではありません。「売主さまVS仲介会社の利益相反を、その会社はどう管理しているか」です。

その答えとして、「担当者の倫理と経験」を挙げる考え方があります。対立する2人の間に立つからこそ、担当者には高い倫理観と判断力が求められる——そのとおりです。前の章で見た、同じ7,800万円でのまっとうな仕事は、まさにその実例でした。

ただ、売主さまの立場で考えてみてください。目の前の担当者にその倫理があるかどうかを、媒介契約を結ぶ前に確かめる方法はありません。取引が始まれば、言っていることが事実かどうかで見分けられる場面もあります。でも、7,800万円の結託は裏で起きて、売主さまからは見えませんでした。検証できないものに頼る防御は、防御になりません。そして法律の章で見たとおり、法律は利益相反を禁じてもいなければ、担当者の倫理を保証もしてくれません。倫理が意味を持つのは、売主さまが外から監視できる仕組みに裏打ちされたときだけです。ところが、いまの業界には、その仕組みが用意されていません。レインズへの登録や業務報告といった義務はあっても、形だけで済ませることができてしまうからです。だから、仕組みは会社が自分で作って、売主さまに見せるしかないのです。

真っ直ぐ不動産は、この問いに仕組みで答えることにしました。利益相反への向き合い方が異なる、3つの売却プランです。

そして、正直に言います。この中でいちばん利益相反に強いオープン売却プランにも、穴はあります。

オープン売却プランは、①の分離と両手の動機の消去を契約で実現できます。でも、②のうち「早く成約して報酬を確定させたい」という担当者の都合は、片手仲介の宿命として残ります。7,800万円の事例で見た結託のリスクは、オープン売却プランでもゼロにはなりません。売主さま側と買主さま側の担当者が裏で手を取り合って決めにいったら、どんな監視の仕組みを用意しても、外から気づく方法がないからです。そして②が完全に消えないのは、残りの2プランでも同じです。

じゃあ、どうするのか。ゆめ部長の答えは、②を「消せる」と偽らないことです。消せない利益相反は、開示して管理するしかありません。売主さまに構造を説明し、判断材料を渡し、売主さまが監視できる状態(レインズ登録証明書・業務報告)を作る。この記事自体が、その開示の一部です。

「利益相反はありません」と言う会社より、「利益相反はここに残ります。だから、こう管理します」と言う会社を選んでください。それが、二重の利益相反を知った売主さまにできる、いちばん現実的な防御です。

まとめ

この記事のポイント:
  • 不動産仲介の利益相反は2種類ある:①売主さまVS買主さま、②売主さまVS仲介会社(=二重の利益相反)
  • 片手仲介が分離できるのは①だけ。②は片手でも両手でも残る
  • 7,800万円の事例:片手仲介でも、担当者同士の結託で売主さまの本音が相手側に渡る
  • 米国の実証研究:エージェントは自分の家なら約3.7%高く・9.5日長く粘って売る
  • 法律は両手仲介を禁止していないが、「利益相反ではない」と認定してもいない(空白)
  • 会社選びの基準は「両手か片手か」ではなく「利益相反をどう管理しているか」

利益相反は、知らなければ防げません。逆に、構造さえ知っていれば、売主さまは会社選びと監視で身を守れます。ゆめ部長はこれからも、業界の内側から見える「利益相反の正体」を、売主さまにお伝えしていきます。

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